こんな小屋が欲しい

物置、離れの趣味の小屋のほか、可能性のある小屋について検討してみたい。まず考えられるのが、ガーデニング用品の収納庫を兼ねた冬季用の温室である。都区内だと冬でも零度以下になることは少ないが、郊外にゆくと冬は霜柱が立つほど冷える。夏はベランダに出した植木鉢も、冬には家の中に入れなければならない。
そこで南側のテラス戸に接して作る温室を作りたいということになる。屋根はポリカーボネート製波板で葺き、夏はこの屋根がテラス戸の日除けになるよう、遮光スクリーンをつけるようにする。
価格的にはアルミ製のサンルームが競争相手である。間口180cm、奥行120cmで施工費込みで46万円程、奥行180cmで53万円程となっている。
次に考えられるのは、ガレージを兼ねたデッキである。屋根のあるガレージならば、車内の暑さ寒さも緩和されるし、車の傷みも違ってくる。さらにスタッドレスタイヤを収納しておくことも可能である。
スチール製、アルミ製、木製などが市販されているが、間口、奥行きなど敷地状況に合わせるため注文生産となっている。独立型で階段がついているものと、上部のデッキが2階のデッキになるよう母屋に接して作るものとがある。
OMソーラーが、S-kitとして新聞広告を通じて販売したセルフビルドキットの中にも、冬寒くないガレージとして、OMソーラー付きのものがあったが部材キット価格は283.5万円と高く、売れずについに販売中止になっている。
さらに隣近所との付き合いもできる離れもいい。タイのチェンマイの郊外では、門の脇に東屋があって、隣近所の談笑しているのを見かけた。日本でも結構庭の手入れをしながら隣近所と立ち話している光景も見かけることが多い。庇のかかった大きなベランダを持った小屋を作ると、アフタヌーンティー、庭づくり談義に話がはずむはず。
窓はできるだけ大きくとり、自然を取り込めるようにする。小屋の外側に薫製を作る炉を付けたり、暖炉を兼ねた石焼き芋ストーブなども、庭に作った小屋だからこそできる楽しみとなる。
省エネルギー化を進める中で以前の住宅に比べ、戸外と閉ざされた住まいが多くなってきた。たとえウッドデッキのテラスがあっても、テラス戸を開けっ放しにして、外と中とを行き来するといったことはごく稀である。これに対してヨーロッパの住宅は、もともと日本の住宅のような半屋外的なスペースを持っていなかったため庭に小さな小屋を作り、ここで自然と触れ合うようにしていた。
母屋がヨーロッパのように変わってきたので、庭に小さな離れを作る、そうした需要はこれから高まりそうである。
(岩下繁昭)

販売されている小屋キット

市販されている小屋のキットには、パネル型とログハウス型とがある。パネル型は大きな小屋は無理であるし、パネルを軽くするため、壁厚が薄く断熱性もほとんどなく物置としての性能しかない。いっぽうログハウス型は、大きな小屋を作ることができ、断熱性もあり居住性もよいので、庭に作る離れとしても十分である。
スチール製物置を販売してきたメーカーからも、木製の物置が販売されている。枠材に杉板を張りパネルにしたものを組み立てる。屋根はスチール製で大きさは間口185cm、奥行100cm、高さ198cmで価格は8万円ほどである。
また北米のホームセンターなどで売っている木の小屋、木の物置もインターネットで販売されている。キットはカナダ産で間口180cm、奥行86cm、高さ180cmで価格は11万円、国産の木製の物置より高い。切妻屋根で妻側に窓、ドアを付けた1坪で壁高183cm、棟高221cmの小屋が16万円程である。壁パネルは、窓付きパネル、ドア付きパネルも含めすべて88cmとなっているので、ドア、窓は自由な位置に設置できる。屋根は防水シートの上に杉板シングル葺きとなっている。
また北欧のログハウスの小屋キットも販売されている。間口140cm、奥行160cm、高さ220cmで、壁厚28mmのミニログハウスが10万円で、これは国産、カナダ産のものより安い。さらに壁厚58mmの本格的ログハウスは、間口240cm、奥行300cm、高さ261cmで両開きドアと窓が付いた約2.1坪のものが40万円程、間口386cm、奥行296cm、高さ285cmの約3坪の大型のものが55万円程になっている。窓やドアのガラスはすべてペアガラスで、屋根はコロニアル葺き、組み立て後防虫防腐塗料を塗って仕上げる。
カナダ産の1坪16万円の小屋は、10mm程度の杉板だけなので、あくまでも物置、しかし北欧産の2.1坪40万円の小屋は、58mmのパイン材なので、趣味などの小屋として使うことができる。
こうしたキットは、基礎は含まれず、また輸送費は別途となっている。小さな物置だと宅配便で可能で3000円から4000円といったところ、大きくなると600kmまでで2~4万円程度となっている。
(岩下繁昭)

セルフビルドの小屋キット

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小屋の魅力については「森の加工場コラム」の小屋の魅力でも書いたが、第1の魅力は小屋はヒューマンスケールの建物であるということである。そのためわかりやすさ、親しみ、安らぎといったものを感じさせてくれる。第2の魅力は、地球環境に配慮した、人間の身の丈に合った暮らし方、スモール・イズ・ビューティフルの精神を具現化しているところにある。
第3の魅力は、ちょっとしたスペースがあればどこでも作ることができるということである。第4の魅力は、作るための費用が安いことである。第5の魅力は、小さいので専門家でなくても作ることができることである。第6には、樽やコンテナ、貨車などをリユースして小屋を作ることができるといった魅力がある。
写真の小屋は、2005年3月にセルフビルドで作った「森の加工場」で、2.4m×2.4m×2.4mの立方体の上に矩勾配の屋根を載せたものである。材料費は30万円ほどで、工期は2週間ほどで内装まで終わっている。断熱材も十分入れたので夏も快適であった。構造材は米松、外壁と床は赤松、内壁はシナ合板の透かし目地張りにしている。屋根は棟の処理がしやすいことからアスファルトシングル葺きにしている。
セルフビルドで小屋を作る際に大変なのは部材の加工である。スライド丸鋸や電動鉋など電動工具が使えば、加工自体はそれほど難しくはない。問題は騒音で、丸鋸は一瞬であるが電動鉋は、材の長さ分だけ騒音を出すので、とても住宅地では使えない。
またせっかくセルフビルドで作るのに、アルミサッシや建材メーカーのドアなどは使いたくない。いかにも手作りといった雰囲気でいきたい。「森の加工場」の木製建具は、埼玉県の建具産地、都幾川村の畑一男さんの指導の下、畑さんの工場を借りて作ったものである。
もう一つの問題は、施工の際の足場をどうするかである。できたら足場は使いたくないが、屋根が高いとどうしても必要になる。小屋を作る場合、回りに余裕があまりないので、単管足場にならざるを得ない。
工務店の加工場で、すべての部材を加工して、後は組み立てるだけといったキットを作れば、セルフビルドでも小屋を作ることができる。しかも断熱材を切って入れる、仕上げ材を張るなどのこまごました仕事は、購入者自らがやればよい。そのためには、キットといっても数回に分けて配送された方がよい場合もある。セルフビルダーにとって、雨のかからない資材置き場も苦労する点なのである。
(岩下繁昭)

回転寿司屋が始めた魚屋

いま回転寿司で人気なのは、大きな魚屋が始めた回転寿司で、直接仕入れた魚を武器に、ネタの大きさ、産地直送など、チェーンの回転寿司では真似のできない魅力を持っている。こうした状況の中で、魚屋が回転寿司を始めるならば、回転寿司屋が魚屋を始めてもいいのではないかということで、回転寿司で寿司をにぎりながら考えた人がいる。
そこで業務用の寿司ネタを、インターネットで販売するビジネスを始めようと考えた。個人経営の小さな寿司屋や飲食店を相手に始めたのだが、顧客となったのは一般消費者であったという。ホームパーティーなどで業務用の寿司ネタを求めていたニーズに合ったのだ。一般消費者にとって寿司屋や飲食店を相手に考えた業務用という言葉は魅力的に感じるのである。
さらに考えてみれば、小さな寿司屋や飲食店の経営者は、インターネットはほとんど使わないし、使ったとしてもネタの仕入れをインターネットに切り替えるなど思いもつかないに違いない。
もちろんこのインターネットを使った寿司ネタ屋さん、自らの回転寿司店で使っている業務用の食材をネット販売しているので、自らは加工は加えていない。仕入れたものをクール宅急便を使って配送しているだけである。
回転寿司屋がインターネットで寿司ネタ屋を始めるのなら、セルフビルドのキット屋さんを始める工務店がいてもいいのではないだろうか。寿司ネタと違って宅急便というわけにはいかないが、周辺ならば自社で、遠方ならばトラック便で配送することは可能である。
セルフビルドで作るのは、まずは物置から離れまで、さまざまな小さな小屋が考えられる。小さな小屋ならば、パネル化すれば組み立ては容易である。屋根はアスファルトシングルならば、素人でも扱いやすい。
また住宅の内部ならば、木造軸組工法で、間柱+石膏ボードといった下地の上に取り付けやすい収納棚などは、意外と多くの人が欲しがっているものである。
さらに工務店ならではの、梁などの古材を挽いて作った無垢材の食事テーブルなど、大工さん手作り風の家具もよい。いずれにしても、WEBにコンピュータで描いたパースや写真を載せて、納期をたっぷりとって受注生産で作ればよい。
インターネットを使ったビジネス、だれでもやりそうなもので、しかもあまり一般的になっていないものをやるのがコツである。回転寿司屋が始めた寿司ネタのネット販売にしても、魚屋ならばだれでもできそうであるが、だれも始めていなかった。
(岩下繁昭)

食べながら選べる確実さ

最近おいしいラーメン屋さんでもチェーン店の場合、自動食券販売機で前もって食券を買ってからカウンターに座り、店員に食券を渡し注文するといったところが多くなってきている。これは自動食券販売機で客に食券を買わすことによって、売り上げデータが確実に収集できるのが第一の理由である。
どこで、何時頃、何が売れるかが自動的に集計できる。アメダスのデータと関係づけ分析することも可能である。いずれ自動食券販売機にカメラが搭載され、写真から常連客なのか、性別、年齢だって分析される時代がやってくるに違いない。
また食べ物を扱う人が、直接お金に触れなくてもよいので衛生的であるというのが第2の理由、さらにキャッシャーの要員が不要になり人件費の削減ができるのが第3の理由であろう。
またオーダーミスは顧客の責任となるし、無銭飲食もなくなるなど顧客とのトラブルがなくなるというのも自動食券販売機導入のメリットと言える。
しかし初めての顧客にとっては、メニューをゆっくりみてから選ぶということができないので、食券を買ってからラーメンがくる間に、まわりの人が食べているのを見て、あれにすればよかったのにと後悔しながら、不満を抱えたまま不本意ながら出されてきたラーメンを食べることになる。
その点で回転寿司は、流されてくるものを見ながら選び、食べ終わってから、次に何を食べるかじっくりと考えるながら選ぶことができる。
工務店に頼むにしても、ハウスメーカーに注文するにしても、自動食券販売機こそ使わないが、注文する際の顧客の戸惑いは同じようなものがある。たとえラーメン屋の自動食券販売機の代わりに、マクドナルドの笑顔のお姉さんのように、カウンターで詳しく説明してくれたところで、回転寿司の食べながら、見ながら選べる確実さに勝るものはない。
住宅も顧客自ら注文したのに、住んだその日から「ああすれば良かった、こうすれば良かった」の後悔が始まる。そこで回転寿司から学ぶことにより「住みながら、見ながら選べる」といった新たな住宅の注文方法が考えられないものだろうか。
スケルトン・インフィル住宅は、とかく入居後の可変性が注目されているが、スケルトン(躯体・外装)は専門業者が、インフィル(内部装備)は、住みながら住まい手自ら施工といったことになれば、「住みながら、見ながら選べる」といった回転寿司方式が可能となる。しかし住まい手自ら施工するセルフビルドは、日本ではあまり受け入れられていない。
(岩下繁昭)

選ばれやすくする工夫

回転寿司のレーンは、右から左に回転するところがほとんどである。これはまず日本人の場合、右側が利き目という人が多く、右から左に移動するものの方が追いかけやすいということからきているという。そういえば空港の荷物を受け取るコンベアも右から左に回っている。さらに右利きの場合、右手で箸を持つため、寿司の皿を取るのは左手となる。左手で待ち受けて取るには、右から左に皿が移動してきた方が取りやすいという。
しかしイギリスの回転寿司チェーンyo!susiは、日本とは逆で左から右に回転している。これは透明なカバーがついているため、箸を持ったまま左手で取ってすぐ食べるというわけにはいかないので、右手で取りやすくしているからであろうが、縦書きの日本語は右から左に読むが、英語は左から右に読むので、そうした習慣とも関係しているかもしれない。
次にレーンの移動速度であるが、実験を繰り返し毎秒8~10cmとなっている。スピードが遅いと見えているものがなかなかやってこないのでいらいらするし、商品である皿に載った寿司の供給量が減るので売り上げが落ちてしまう。逆にスピードが速すぎると、タイミングよく手を出を出して取るというのが難しくなる。
一般には回転寿司の食事に要する平均時間は、15~30分だという。最初の15分で大体6皿、その後の10分は2~3皿とペースが落ちるという。これはだんだん満腹感を感じてくるからである。
さらに動いていると視覚が刺激され、食欲が増しつい食べ過ぎることになる。また流れてくるいろいろな寿司を見ていると、「食べるか食べないか」といった思考から「何を食べるか」の思考にすり返られ、さらに狙っていたものが、手前の誰かに取られてしまうと、「誰かに取られる前に取らなければ」といった思考に発展し、つい皿に手が出てしまうということになる。
また回転寿司ではレーンへの寿司の流し方にも工夫があるという。まず同じネタのお皿を3皿ずつまとめて流すのが一般的といわれている。これは見やすくするためで、ネタを1皿ずつ置くと、見にくくしかも次々と別なものが来るので、落ち着いて選ぶ余裕がない。
さらに前後には対照的なものを流すと、「いろいろなものから選ぶ」という思考が、「AかB」といった思考に変えられ、選ばれる時間が短くなってくる。そのため「高いものと安いもの」、「ひかりものと赤身」、「玉子やウナギなど乾きものと、ブリ、アジなど生もの」という具合に対照的なものを組み合わせて流すようにしているという。
(岩下繁昭)

注文でつくるか、できたものから選ばさせるか

寿司屋と回転寿司の大きな違いに、顧客の注文で作るか、作ったものを顧客に選ばさせるかといったことがある。顧客の注文で作る場合、用意した材料が無駄になったり、材料が用意されていなくて注文に応じられない場合もある。また一緒に作ってしまった方が効率が良い場合でも、注文ごとに作るので材料を出したり、戻したりで効率が悪い。
また顧客にとっても、次に何を注文すべきか考えるのが煩わしい時もあるし、注文といってもそんなに拘ったものではなく、思いつきといったことも多いはず。
わが家はクロスが2種類しか使われていない。隣の家は部屋ごとにクロスが全部違っている。どうして部屋ごとに変えたのか、隣の奥さんに聞くと、一部屋ごとにどうするか聞かれたから悩みながら決めたという。全部同じでいいのならそう言ってくれたら悩まなんで済んだのにというわけである。
必ずしもこまごまと注文したからといって満足の家ができるというものでもない。寿司屋には、にぎりの「松」、「竹」、「梅」があるし、「お任せコース」などというのがある。工務店にだって社長おすすめの確かなメニューがあってもよいのではないだろうか。
いっぽう回転寿司は、見込みで作ってレーンに載せる。流れてきたものを選ぶのは顧客である。もちろん時間帯によって顧客層も違うので、作るものも客層によって変えている。というのも客が取らず時間が経過したものは、捨てなければならないからである。選ばれないものをどんなに作っても無駄になるだけである。
通常30分以上たったものは廃棄される。一周14分のレーンだと2周したところで捨てられることになる。時間の経ったものを捨てるというのも大変な作業なので、最近ではお皿にQRコードが貼られ、これをセンサーが読み取り、設定以上の時間が経過したものは、自動的に廃棄される時間制限管理システムが開発されている。
客の目の前で作り、しかも時間が経っても売れ残ったものを廃棄するとことによって、「回転寿司」は、寿司に求められる新鮮さを演出している。また並べられた商品の中から選ぶ、メニューやカタログの中から選んで注文するといったこと以上にどきどきするのは、おそらく今ここで取らなければ、誰かに取られてしまう、あるいは動くものは追いかけたくなるといった動物的本能をくすぐるからであろう。
顧客の注文で作る「寿司屋」、作ったものを顧客に選ばさせる「回転寿司」という違いに注目すれば、「寿司屋」は「大工・工務店」であり、「回転寿司」は「パワービルダー」であると言える。そう「大工・工務店」や「ハウスメーカー」の住宅は、いつでも同じものを頼めるが、「パワービルダー」は土地の上に載せて一体として売ることによって、売れてしまえば二度と同じものは買えないといった焦りをわれわれに与えている。まさにこれが顧客を釣るテクニックかもしれない。
(岩下繁昭)

顔が見える寿司づくり

「工務店は近所の寿司屋、ハウスメーカーは回転寿司」ということで回転寿司を見てきたが、どうも回転寿司はハウスメーカーとは違ったビジネスモデルであることがわかってきた。ハウスメーカーは、むしろ「宅配寿司」に近いのではないだろうか。
きれいなカタログを作り、それをもとに注文を取り、工場で生産し現場まで届ける。ハウスメーカーはカタログ通りには売れないが、めざしていたのは同じようなビジネス・スタイルである。
しかし「宅配寿司」の市場は、年間350億円、「回転寿司」の1/10以下で、1兆5000億円と言われる寿司市場の3%以下でしかない。「宅配寿司」が人気がないのは、味とか食感、新鮮さだけでなく、作る人の顔が見えないからであろう。
SUSIは今や国際語、世界中ほとんどの国でSUSIがスーパーマーケットで売られている。タイのチェンマイですらラッピング寿司がスーパーの店頭で売られているほどである。こうした寿司はいくら和食が食べたいといっても、価格が高いだけでなく、どこでだれが作っているか見えないため、閉店前にいくら値引きなっても、なかなか手が出ない。
住宅の世界でも、顔の見える木材で家づくり、顔の見える家づくりなど、使う材料、作る人が見える作り方が求められている。海外のまがい魚を使っているような回転寿司ではなく、大洗、真鶴、銚子など特定な港で上がった魚をメインにしている回転寿司や、産地直送を売りにしている回転寿司が人気になっているのも、使う材料の顔が見えるからの違いない。
ハウスメーカーの住宅も「宅配寿司」や「ラッピング寿司」と同様、なかなか顔が見えにくい。材料や作る人の顔を見えるようにするのは難しいので、設計する人の顔を見せようといった試みも始めている。
積水ハウスは、社外の建築デザイナーと協業し、街角展示住宅「ウイズ・アーキテクト」事業を始めている。これは分譲用地を持つ積水ハウスの支店が、敷地に合った分譲住宅の設計を建築デザイナーに依頼、積水ハウスの資材を使って建設し、半年から1年間展示場として使い、その後中古住宅として売り出すというものである。
工務店にとって、人気のある「回転寿司」の顔の見せ方には学ぶべき点が多い。現場見学会にしても、ただ単に施工途上のものを見せるだけでなく、活気を持って働いている職人の姿も見せるべきではないだろうか。また使う材料にしても住みたくなるような、産地直送の新鮮さが必要であると言える。
(岩下繁昭)

寿司職人の育成

一人前の寿司職人になるには10年以上の経験が必要だと言われている。それでも短くなってきているという。お茶くみだけで6年、昔は一人前の職人になるにはもっとかかったという。
また寿司屋が減少し、見習いの職人が修業する場所そのものも減ってきているし、フリーターでも食べてゆける今は、離職率も高く、後継者の育成はなかなか難しい。2002年には寿司職人を育成する学校「東京すしアカデミー」も誕生している。
「東京すしアカデミー」に入学してくる学生の多くは、30代前後であるという。しかも卒業後は寿司ブームに沸く海外でという人も半数ほどはいるようである。またアカデミーでなく職人をめざして大きな寿司屋に入社して修業に入る人も、最近では企業経験者や大学の卒業生も多くなってきている。
こうした傾向は大工・工務店の世界にもある。大学を出て家電メーカーで働いていた人や、建築学科を出て設計事務所に勤めていた人が、大工の世界に憧れて入ってくるという。中学や高校を出たての若者でなければ、職人に育てるのは難しいと考えている人もまだまだ多い。
バイオリンやピアノの英才教育をイメージしながら、技を身に付けるには年齢が若い程よいというのがその理由である。さらに修業中の暮らしといった点で、若者ならば小遣い程度の給料でよいというのも理由になっている。しかしそうした理由から「職人の育成=若者」という考えはもう捨てるべき時代になってきていると言える。
いっぽうの回転寿司も職人の技量に頼っている部分が残されている。魚の仕入れ部門もそうであるが、魚を下ろしてネタにしてゆく段階である。刺身の切り方は、味や食感にも関係してくるが、ここでの職人の技はコストに大きく関わってくる。
1匹2000円の魚をもとに、400円、1皿2カンの寿司を作るとする、この魚からネタが20枚取れたとすると、1皿のネタ代は200円となる。おそらくこれでは価格の半分がネタ代となり利益は出ない。40枚取るとネタ代は100円となり、これだと利益は出てくるはず。
しかも仕入れる魚の価格は、季節によっても大きく変動するし、味もかなり変わってくる。回転寿司は日本の代表的ファストフードの見られているが、ハンバーグや立ち食いそばなどに比べ、マニュアル化が難しく現場の職人の腕に依存するところが大きく、かなり品質やコストの管理が難しいビジネスであると言える。
回転寿司の人気の秘密は、こうした職人の腕の見せ所がまだまだ残されているところにもあるのではないだろうか。そうロンドンのパディントン駅の回転寿司屋、活気がなかったが、工場で魚を下ろしここでは寿司ロボットの作るしゃり玉に載せているだけだった。
(岩下繁昭)

回転寿司のはじまり

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回転寿司の第1号店は、1958年、近鉄の布施駅北に開店した「コンベヤー旋廻食事台」を採用した「元禄寿司」である。
この「コンベヤー旋廻食事台」を発明したのは、第2次世界大戦直後の1947年に布施で立ち食い寿司屋の「元禄」を創業した白石義明で、一般の寿司屋より3割程安く提供し人気を得ていた。しかし寿司職人の確保が難しくなり、他の方法での省力化を必要とするようになっていた。
1953年、白石義明は料飲組合でアサヒビール吹田工場を見学し、ベルトコンベヤーの上をビール瓶が流れ、ビールが注ぎ込まれていく様子を見て、寿司をコンベヤーに乗せ回して出すアイデアを考え出した。このアイデアが形になったのはそれから4年後の1957年で「コンベヤー旋廻食事台」という名づけ、翌年に回転寿司の1号店を開店した。
1968年フランチャイズ1号店が仙台で開店、さらに1970年の大阪万国博覧会の西口広場に出展、これがきっかけとなって全国にその存在が知られることになり、フランチャイズの全国展開が始まった。
顧客の注文を聞き、できあがった寿司を配膳し、皿を片付けるといったウエーターの仕事が回転コンベアの登場で一切不要になった。食器洗いも機械化されているので、残されたのは寿司の製造部門である。寿司ビジネスの省力化でもう一つの大きな働きをした、自動的に寿司のしゃり玉をにぎる寿司ロボットの登場が待ち望まれた。
1980年北日本カコーが「自動寿司にぎり機」を、さらに同じ年にともえが「寿司ロボット」を開発、翌年の1981年鈴茂器工も「ST-77型寿司ロボット」を開発している。寿司ロボットはすぐに回転寿司チェーンに導入され、にぎりの質とスピードに関して開発競争がなされ、現在では最大毎時3600カンのしゃり玉が生産できるものも登場している。
回転寿司は、全国に5000店舗ほどあると言われている。寿司の市場は1兆5000億円、そのうち回転寿司が4500億円で今後さらにそのシェアは伸びるのではないかと考えられている。しかし4500億円の中で大手回転寿司チェーンの売り上げは600億円程度と少なく、小規模な業者がひしめき合っているのが現状である。
さらに回転寿司は、カラオケと同様に世界各国に進出していった。写真の回転寿司はロンドンのパディントン駅にあるyo!susiで、寿司ロボットも見える。駅構内であるので皿の上には透明なプラスチックスのキャップが被せられている。
(岩下繁昭)

回転寿司とハウスメーカー

建築経済学は、これまでマクロ経済学的アプローチがほとんどであった。これは建築や住宅が社会資本形成といった価値に注目され、計画経済的な世界で役立つ研究がほとんどであった。GDPに占める建設投資がいずれ他の先進諸国と同様な10%程度になるであろうが、その時には建築も他産業と同様な市場経済での行動となる。
そうした市場経済においては、ミクロ経済学的なアプローチもわれわれの未来を考える上で必要になってくる。これまで建築経済学では、ほとんどなされてこなかったミクロ経済学的なアプローチで建築業界とくに住宅業界の未来について考えてみることにする。
まずこの業界の関係者の多くの関心は、大工・工務店の未来である。この問題に他産業で同様な競争関係を調べながら、生き残りの道を考えてみることにする。
「工務店は近所の寿司屋、ハウスメーカーは回転寿司」というテーマで、そのスタートを切ることにする。回転寿司の第1号店が大阪に生まれたの1958年、さらにそのフランチャイズ1号店が仙台に登場したのは1968年、時代的にもプレハブ住宅の登場に似ている。
(岩下繁昭)